渾沌の中に生まれゆくもの

2020年03月26日

ZaoFactoryは、社員の部活動のひとつである。(現在は他に2つ)

今彼らが商品を作り、クラウドファンディングに挑戦している。

 

なぜ部活なのか?

このプロジェクトには彼らを含む社員間で育まれた関係性という「根っこ」がある。

 

2009年、リーマンショックと家電業界の製造拠点のアジア移転が重なり、早川工業は苦境に立たされていた。同時期に社長となった私と社員たちは、殺伐とした中にも可能性を見出そうとしていた。

時期を同じく知的障がいのHさんを戦略として雇用した。こだわりの強い彼との間にはトラブルは幾度となく発生した。しかし、周りの社員も彼自身もそれぞれ不安や問題を抱えたまま、お互いに排除しあうことなく過ごしてきた。勤続は9年を超えた。この時間と共にHさんは持ち前の集中力で作業の効率は社内随一の加工高となり、現場に必要な人材となっていった。「共にいる」という社員間の関係性の始まりである。

 

会社の危機から後5年間は、社員と共に事業の継続と経費を抑えることに注力したが、社員の平均年齢が60歳に手が届きだしたところで、会社を未来へ伸ばしていくための試みを始めた。まず、中国工場の運営を私の手から放すことを決めた。そこで、海外事業従事者を求めたところ、20代の若者Y君が入社してくれた。彼の入社を機に、先輩が多数を占めていた私の会社での環境は少しずつゆっくりと変わり始める。

 

Y君とは中国出張を共にしていたため、寝食も共にし、多くの時間を一緒に過ごした。似ている価値観、違う価値観などを交換し合い、互いに共感していたと感じる。当時は若手の求人応募も少なく、定着率も悪かったため、私は求人に対して消極的であった。彼の存在は、私の中の求めたい人材を明確にして、求人への意欲を駆り立ててくれた。彼は、後にZao Factoryの「センチメンタルエンジニア」となる。

 

求人の結果、新たな社員さん達が数名加わってきた。その中には現在の課長であるKさんもいた。Kさんは、課が目指す雰囲気を「指示がなくても皆が助け合える関係」とし、その担い手として課の環境づくりの核となっていく。

 

Kさんが課の雰囲気作りに奮闘している間、障がいの方々の雇用を増やし「ごちゃまぜ人材活用」を始めた。彼らは職人という自分の得意なことを活かす持ち場で活躍する場を創ることになる。

 

これらの活動をアピールすることによって、文系新卒女性二人が共感し加わってくれた。その一人が、Zao Factoryの「エセデザイナー」になっていく。

 

ここには書ききれない人たちが、それぞれの「個」を出しやすい環境が整いだした。

 

新たに加わってきた人材に共通していたのは、得意なこと、やってみたいことを口に出せることであった。やってみたいことをやってもらうことで、一旦組織のバランスを崩し、創造性や感性が育たないかという私のチャレンジが始まった。

 

やってみたいことをやってもらう。それだけのことではあったが、それは一人一人の「違い」を表していくこととなり、ある種のカオスを生むのである。そして、それぞれが不安や苛立ちを抱えながらも共にいる時間は「あたりまえ」や「普通」をぼんやりさせ、障がい・健常などの垣根が健常側から溶けていく時間でもあった。そして、何人も「溶けた」人たちが社内に生まれていった。

 

ある若手社員が久しぶりに学生時代の友人達と会った時の話。互いの価値観を交換し合う中で、友人と自分との間で、「障がい」に対しての観点が大きく乖離していた。その時、初めて気づいたらしいのである。これは知らぬ間に、彼自身が持つ「健常」という観点が溶けだしていることを物語っている。

 

この混沌とした状態と時間を社員間で共有できるようになれば、お互いを知る関係性が生まれ、安全で柔らかい空気感に包まれる。そして安全な空気感は、安心な場となっていくと感じている。実際にその後入社した発達障がいの方が、加工技術を驚異的なスピードで体得できる環境となった。

 

無理に不安や恐れを抑圧せず、回避せず、抱えたまま共にいる。そんな社員や自分を手放し・見守り・バランスを取るという覚悟が必要だと感じる。当然、自分自身の内面にも葛藤というカオスが発生するので、自分自身を内観していく作業がひたすら続くのである。

 

Zao Factoryの感性は、直接的には若い二人から出てきたものである。しかし、社業と関係なしと思われがちな活動は、お互いを知るという混沌とした時間の経過の中で育まれたのだと感じている。

 

そして、なぜ部活なのか?という最初の問いに戻る。

 

それは、お互いの「個」を見えやすくする。時間の制限や数値管理から一旦離れること、「やってみたい」という内発的動機づけを維持したり、引き起こしたりする。それぞれの「個」が発揮しやすくなると思う。こうした関係性がイノベーションの種になるかもしれないという「不確実性」に富んだ期待感もある。

 

未来は予測できない時代へと突入していく。不確実性を楽しみながら働く場づくり、人と人との関係性が、これから先の町工場の在り方や若い人たちの一助になることを祈りつつ、このプロジェクトを応援していきたい。

 

部活という活動がシゴトという形に「ヘンタイ」する日まで。

そして健常という概念がみんなの中で溶けて無くなる日まで。

 

ぼくたちは音楽家でも芸術家でもないけど「表現者」でありたい

 

※これは私の主観であり、社員たちの想いを代弁する物ではありません。

 

▼Readyforクラウドファンディングページ

https://readyfor.jp/projects/zaoFactory